見直しが図られた「倫理憲章」が新卒採用に及ぼす影響とは?
学生は、大学は、企業は、そして採用業界に携わる我々はどう変わるのか、どう生き抜くべきなのか。
採用の未来を、業界で活躍する方々とシンクトワイス代表 猪俣知明が読み解きます。
第五回目は、『アイデムスマートエージェント』の吉川英孝様をお迎えし、いま学生は、企業はどう動いているか、その実情をお聞きし、今後の採用業界の展望についてもお話しいただきました。
加速化する企業の採用のナビ離れ。新たな手段を模索する企業の採用活動。
- 猪俣
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この対談では「倫理憲章」の見直しが、2016年度入社の新卒新入社員の採用活動にどのような影響を与えるか、採用業界に関わる方々にお聞きしています。アイデムスマートエージェント様は、シンクトワイスと同じ新卒紹介サービスを提供していらっしゃいますが、倫理憲章の影響が16採用にどんな影響を与えると予測されていますか?
- 吉川
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過去の対談も拝見していますが、私もまったく同じ考えなんですよ(笑)
- 猪俣
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それでは記事にならないですよ(笑)
- 吉川
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倫理憲章が見直され、採用活動が大幅に後ろ倒しになっても、確かに大手企業はほとんど困らないでしょう。一方、中小企業では人材確保が激化すると思います。企業側にとってのこの状況は、今までと同じですし、この予測は既に掲載されている企業様の意見とも同じです。そこに加えて、私はナビ離れが進むと考えています。
- 猪俣
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ナビとは、リクナビやマイナビなどの就職サイトのことですね。一時期は就活をする学生はほぼ全員が登録していましたし、採用活動の基本として利用している企業も多いですよね。
- 吉川
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倫理憲章の見直しで、ナビはオープンが来年3月になりますよね。学生は3月まで就活を待ってはいられないし、多くの企業が倫理憲章を気にせず採用活動を行うのではないかとも思います。実際、当社のお客様で規模が小さい企業様などは、倫理憲章自体をご存じないケースもありますから。それに、今年はインターンシップが一気に増えましたよね。集客に苦労をしている企業も多く、現時点では採用にうまく繋がっていないという声も聞きますが、採用に直結すればナビのオープン以前に内定を手にする学生が増える訳です。企業にとってもインターンシップを採用に直結させた方が、コストをはじめ様々な面で利益がある。倫理憲章で定める3月の前に、求める人材を確保する流れがより進むでしょう。
- 猪俣
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そうなると学生の内定承諾のピークも前倒しになると考えられますか?
- 吉川
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売り手市場ですから、どんな学生でも内定を持っている状態になるでしょうし、その時期は早まるでしょうね。下手をすると年が明けたら、学生が残っていないという可能性だってあり得ると思いますね。
- 猪俣
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新卒紹介事業者にとってはつらいですね。
- 吉川
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倫理憲章の見直しは、基本的にはアゲインストだと捉えています。ただ、視点を変えれば追い風にもできる、とも考えています。その理由のひとつが、16採用では今まで以上に「良い人材を採る」ということを目指す企業が増えるだろうという、当社の予測があるからです。
「良い人材」をピンポイントで紹介するためのツールと取り組みとは?
- 猪俣
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スマートエージェント様では16採用に向けて、どのような施策を始めていらっしゃいますか?
- 吉川
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当社は4期目に入り、ノウハウやフローが固まりつつある状況です。そんな今だからこそ、倫理憲章の見直しを契機に大きくなるチャンスだと捉えています。そのためのスタートとして始めたのが「アセスメントツール」の施行です。当社は以前より、登録した全ての学生との面談を、じっくりと時間をかけ、徹底して行ってきました。そうして学生の資質やパーソナリティをしっかり理解し、企業の求める人材像に合致した学生を紹介することでミスマッチを減らしてきました。これは今後も続けます。ただ、時間もかかりますし、エージェントの資質への依存度が高すぎる。そこで、当社独自のアセスメントツールを作り、登録した全学生に実施することで、客観的に学生の資質や個性を計ることができるようにしました。評価をするための設問には当社の今まで培ったノウハウが詰めこまれていますよ。
- 猪俣
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スマートエージェント様の統一基準をもとに学生のカテゴライズができるということですね。
- 吉川
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先ほどもお話ししたように、16採用では企業は「良い人材を採る」ことをより目指すようになるでしょう。中小企業では、優秀な人材確保が従来より難しくなるはずですから、今までのようにナビで応募者を稼いでその中から優秀な学生を採用するというやり方は通用しなくなる。ピンポイントで人材ニーズを打ち出し、そこに合致した学生を早期に採用するというのが、勝ち抜く術だと考えています。「アセスメントツール」で学生を細かくカテゴライズできれば、ピンポイントで採用したい企業のニーズに応えることができるのです。
- 猪俣
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そういったツールの開発のスピードなどは、やはりアイデムという大きなバックボーンをお持ちだからこそだなと感じますね。そのほかにはどんなことを?
- 吉川
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ツールはあくまで手段。どんなに正確に、細かく学生をカテゴライズしても、それをエージェントが活かして紹介できなければ意味がありません。そのために、エージェントのスキルアップを図っています。エージェントの数も倍の12人に増員しました。
- 猪俣
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かなり攻めてらっしゃる印象を受けますね。
- 吉川
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15採用では、約420社にクライアントを増やすことができました。前年が少なかったからではあるのですが、前年比約270%です。新卒紹介マーケットは1000社といわれていますが、倫理憲章の見直しで企業の採用手法が変わり、確実に拡大するでしょう。当然、紹介会社も増えています。そこで勝ち抜くために、当社はターゲットを変えていかねばと思っています。現在は中小企業が主たるクライアントですが、大手にも営業をかけていく予定です。ただ、大手企業の紹介への認知・ニーズは進んでいますから、優秀な学生を集めなければニーズには応えられない。面談とアセスメントツールは、大手企業対策でもあるんです。学生は、採用時期が後ろ倒しになっても、あまり動いてないのが現状です。でも「カウンセリングに来ませんか」と声をかけると、集まるんです。そして口コミで広がっていく。ツールを駆使して、その中から優秀な学生を発掘し、関係を保っていくことがこれからの当社の命題だと思っています。
企業・学生・大学に「選ばれる」新卒紹介を目指し、業界はさらなる飛躍を
- 猪俣
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新卒紹介業界のお話が出ましたが、今後の業界全体についてはどうお考えですか?
- 吉川
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業界は確実に成長するでしょうね。企業の認知が深まり、ニーズは増えています。ピンポイントで欲しい人材を確保できる採用手法としても注目されています。私たち紹介会社が生き抜くには、その成長するマーケットの中でどうシェアを取っていくかを考えなければなりません。各社差別化が必要な時期が来ている、と感じています。当社でいえば、ツールやクライアントの層の拡大ですね。売り手市場になりますから、企業は内定を出した学生を逃がさないグリップ力が必要になってくる。そこへの提案、学生と企業の関係作りも私たちがパートナーとなって行うべきでしょうね。
- 猪俣
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新卒紹介を行う企業は増えていますね。とにかく学生を集めさえすればできるという側面を持っているビジネスですからね。
- 吉川
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紹介業者が増えることで、質の低下が懸念されますね。企業と違い、学生は新卒紹介にまだピンと来てないところがありますからね。だからこそ、既に事業を行っている私たちがしっかりとしなければいけない。学生の就活って、結局は「口コミ」なんです。先輩に教えてもらって、友達の評判を聞いて、やってみてみる。そこで「スマートエージェント、よかったよ」といってもらえないといけない。そうして「新卒紹介はいい学生が使うサービスだ」と企業にもっと認知されていけば、生き残ることができるでしょう。学校との連携も大切になってくるでしょうね。口コミの場ですし、影響力もありますから。
- 猪俣
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そういう意味では今年は大切な年ですね。
- 吉川
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そう思います。新卒紹介事業をもっと啓蒙できるような、団体のようなものも必要なんじゃないかと思っています。チラシやパンフレットを作って、学校で配布するとか。企業にも、学校にも、学生にももっと浸透させるような活動が必要ですよね。
- 猪俣
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本当ですね。私も同業の方たちと会う機会があると、常に組合や団体のようなものの必要性の話が出ます。認知はもちろん、質を維持するためには絶対に必要だと思いますから。そこでも今後、協力して進めていきましょう。
- 吉川
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ぜひ、よろしくお願いします!
アイデムスマートエージェント株式会社 グループリーダー 吉川英孝(よしかわひでゆき)氏
1998年入社。求人広告の営業経て、フリーペーパーの企画・運営、ネット事業の立ち上げに従事。
11年に人材紹介部門を設立。新卒部門およびキャリア部門、20代特化のユース部門、シニア部門を統括する。
現在はグローバル人材も視野に活動中。
■アイデムスマートエージェントHP
http://shinsotsu.smartagent.jp/