見直しが図られた「倫理憲章」が新卒採用に及ぼす影響とは?
学生は、大学は、企業は、そして採用業界に携わる我々はどう変わるのか、どう生き抜くべきなのか。
採用の未来を、業界で活躍する方々とシンクトワイス代表 猪俣知明が読み解きます。
第二回目は、『カケハシ スカイソリューションズ』代表取締役社長中川智尚様をお迎えし、2016年度新卒採用で中小企業が成功を収めるためにはどうすべきなのか。またカケハシ スカイソリューションズ様の今後の展開についてお話をお聞きします。
短期化と激化が予想される16採用 中小企業はどう生き抜く?
- 猪俣
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このコーナーでは、企業の社長さまに、新卒採用に関する自主ルールである「倫理憲章」の見直しが及ぼす採用活動への影響や、人材ビジネス業界の変化予測をお聞きしています。
- 中川
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今回の見直しでは、2016年度入社の新卒新入社員の採用活動解禁の時期が大きく後ろ倒しになり、学生が就職活動を行える期間がほぼ最後の1年間だけとなりました。これは前回行われた後ろ倒しの変更とは、似て非なるもの。いままでにない変更です。そのため「16採用はどうなるのでしょうか」とたくさんの方から質問を受けます。
- 猪俣
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前回の変更は2011年。東日本大震災の影響を鑑み、2013年度の新卒採用の解禁が12月になりました。今回はそこからさらに3ヶ月後ろ倒しになるため、企業が採用にかけられる時間は大幅に短くなりますね。カケハシ スカイソリューションズ様では16採用をどのように予測されていますか?
- 中川
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近年、新卒採用は売り手市場になってきましたが、それが更に強くなり、超売り手市場になるだろうと考えています。経済動向に加えて、先ほどから話題に上がっている倫理憲章の見直しによる採用活動期間の短縮の影響がそこに出るだろうと予測されるのです。企業は優秀な人材をより多く採りたい。しかし、選考にかけられる時間は限られている。
- 猪俣
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今までと同じ採用フローで時間をかけることはできませんよね。となると、採用フローを簡略化しなければなりませんが、それでは人物をじっくり見極められないというジレンマがある。
- 中川
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一方で中小企業ほど採用活動が長期化しているという側面もあります。15年度入社の採用活動を15年4月ギリギリあるいは多少オーバーしてまで行い、目標数を達成しようという中小企業もあることでしょう。となると、採用担当者に採用フローを変更する余裕はなかなかありませんよね。
- 猪俣
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採用担当のチームは年度単位で用意できるものではありませんからね。現在も2年度分の採用を同時進行でこなしている企業もあるくらいですから。エントリーを大量に集めて優秀な人材と出会える割合を増やすという手段もありますが、採用活動を行う期間がネックになりますね。
- 中川
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それでも大企業ならネームバリューでその方法が採りやすいですね。売り手市場ですから、学生は企業を選び、人気企業に集まります。就職ランキング上位に入るような大企業はあまり例年と変わらない採用活動でも、目標を達成できるかもしれませんね。ただ、中小企業は違う。とにかく時間も予算も、ヒューマンリソースも、ネームバリューもありませんから。大企業に勝って人材を獲得するには、できるだけ早期に学生と会う機会を作らないといけない。それも倫理憲章を守るのであれば、採用活動以外でということになる。
- 猪俣
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確かにそうですね。中堅中小企業は、苦戦を強いられることになりそうですね。
- 中川
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倫理憲章は数年は見直されませんから、16採用に失敗してしまったら、来年も再来年も良い人材が採れないということになる。中小企業にとっては、本当に大きな影響がある見直しだと思います。当社のクライアントには、中小企業の方が多いんです。皆さん、かなりの危機感をお持ちです。当社ではイベントを開催し、そういった中堅中小企業の方に「16採用に勝つためにはどうすればいいか」というお話しをしています。
新たな視点を持ったインターンシップが 採用成功のカギ
- 猪俣
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「早期に学生と接触できる機会を持つことが中小企業の採用を成功させるカギになる」ということでしたが、カケハシ スカイソリューションズ様ではどんな方法を提案されているのでしょうか?
- 中川
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企業の採用手法やフローは、実際そんなに変化しないと私は考えています。エントリーの受付以降は、従来通りに選考が進むと思います。先ほど猪俣さんがおっしゃったように、そこに手を加える時間がありませんから。だからこそ、それ以前、早期の段階で手を打たなければならない。やはりそれはインターンシップではないかと思っています。
- 猪俣
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第1回にご登場いただいたアスリートプランニングの山崎様もそうお話しされていました。
- 中川
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そうでしたね。従来、インターンシップの参加者から内定者が出ることはほとんどありませんでした。それはワンデーのように短期間であったり、説明会や一般的なワークショップのような内容のインターンシップが多く、学生の能力を見抜けるプログラムが少なかったこと、学生にとっても企業理解を深める内容ではなかったことなどが理由でした。そのため開催意義自体に疑問が持たれ、一時は多くの企業が行っていたインターンシップも下火になっていました。それが3年程前から、中小企業でインターンシップから採用される学生が出始めたのです。長期間にわたって実際に就労体験をさせるインターンシップなどがその例です。企業と学生でお互いの理解が深まり、採用後のイメージもつかめるので当然かも知れません。16採用でもそういった、従来のインターンシップを脱した企画が必要でしょうね。
- 猪俣
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ただ、インターンシップはどこまで自社の内実をさらけだせるか、ちゃんと適正なプログラムを組めるか、学生を見極められる社員を配置できるかなどが大切になってきますよね。中小企業ほどハードルは高いかもしれませんね。
- 中川
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16採用に向けて、大手企業も同様にインターンシップを開催するでしょうから、どう差別化できる魅力を打ち出すかが大切ですね。マイナビ様もインターンシップ専用サイトを立ち上げられます。これまで採用活動で行われていた競争の状況がインターンシップに移行しただけ、という印象を受けてしまいますね(苦笑)
- 猪俣
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倫理憲章は採用手法より、インターンシップのカタチに大きな影響を及ぼすことになりそうですね。
- 中川
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採用活動の期間は短くなりました。しかし、インターンシップの時期を見れば、14年6月から15年2月いっぱいまで9ヶ月間も時間があることになります。ここを有効に使えば、多くの学生と会うことができるはずです。今年は長期間にわたって、何度も開催されるインターンシップが増えるでしょうね。
- 猪俣
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インターンシップをうまく利用することが中小企業の採用を成功に導くカギと言うことですね。ただ、16採用のためのインターンシップの開催時期は今夏。もうすぐです。そのためのプログラム策定や募集など、準備はいますぐにでも始めないと出遅れてしまいますね。となると、やはり翻って中小企業にとってはハードルが高いと感じてしまいますが……。
- 中川
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アウトソーシング化も進むでしょうね。当社も『島キャン』という独自のサービスをスタートさせます。これは今までとは違ったインターンシップのサービスなんですよ。
倫理憲章の見直しが生む 新たなビジネスチャンスと可能性
- 猪俣
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『島キャン』とはどのようなものですか?
- 中川
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その名の通り、島を学びの場(キャンパス)と捉え、キャンプするように自身の可能性を拡げていこう、というインターンシップです。具体的には、奄美大島や与論島などの離島で、現地の仕事を体験してもらう、就労体験のプログラムになります。
- 猪俣
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タグライン的に「島おこしインターンシップ」と書かれていますが、単一企業が自分たちの事業を体験させるインターンシップとは一線を画しているわけですね。
- 中川
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そうです。企業のためにプログラムを組み、採用担当者が現地に行って監督するという内容ではありません。現地の人と交わり、実際に仕事を体験するのが目的です。農業や林業、漁業、伝統工芸や観光ガイドなどの仕事があります。学生たちにはそこで働くことを学び、離島の生活を体験し、理解してもらいます。離島は以前からこういった島興しの活動をしているのですが、島内の人間だけでは広報活動などが難しく、活用できているところが少ないというのが現状。そこで当社がパートナーとなって、学生を呼び込もうというのがスタートでした。
- 猪俣
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企業はどのように関わってくるのでしょうか。
- 中川
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人事社員に「離島まで来てくれ」というのは難しいですね(笑) 島キャンは説明会や活動報告会を都内などで開催する予定です。そこに参加していただくことで、学生と接点を持ってもらえるわけです。
- 猪俣
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なるほど。自社のインターンシップをアウトソーシングするよりも簡潔で、中小企業にとってはうれしい企画といえますね。
- 中川
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当社も、就業体験を通して学生の人間性や能力などまで知ることができますから、その後の就活関連のイベントなどで企業とのマッチングなどがしやすい。学生にとっては、企業との接点になるし、この島キャンでの経験を就活のネタに使ってもらうこともできる。ぜひシンクトワイス様に登録している学生さんにも勧めてあげて下さい。
- 猪俣
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島キャンでの経験は、面接などで武器になりそうですね。
- 中川
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非日常の中で共同生活をするというのは、人と人の絆も育みます。16採用は採用活動期間が短くなったことで、内定者フォローに割く時間の捻出も難しくなりました。そこで島キャンを活用していただくことも考えていますよ。
- 猪俣
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いろんな可能性が考えられる企画ですね。おもしろいです。
- 中川
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最大の目的は、やはり学生を集めることですね。今後は大学にもはたらきかけて、学生のインターンシップへの参加を後押ししてもらう予定です。大学側も学生の就職率の向上を目指して様々な取り組みを行っています。島キャンは特定の企業で就労体験をするわけではなく公共性も高いので、大学側も後押しをしやすいのではないかと思いますね。最近の学生は、ボランティアなどの公益性への志向が強い子も多い。そこに島キャンの企画は刺さると思っています。
- 猪俣
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確かに学生の志向は多様化していますね。カケハシ スカイソリューションズ様が提供されている『ミートボウル』、『シュウクリーム』といったサービスに島キャンが加わると、かなりバリエーションに富んだ学生さんの情報が集まることになりますね。
- 中川
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それも、学歴や専攻とい行った表面上のデータだけでなく、人材の深いところまで知ることができます。それを武器に、クライアントである中小企業様の採用活動をお手伝いできればと思っています。
- 猪俣
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まだまだこの先、カケハシ スカイソリューションズ様ならではのサービスが生まれそうですね。
- 中川
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16採用は短期化と激化が予想されますが、その中では「まだ満足できない」と内定を持ちながら活動を続ける学生を生むことにもなるでしょう。その裏には内定が取れずにあえぐ学生も多くいるはず。そうなると新卒紹介もまた、ニーズが増えます。お互いがんばりましょう。
- 猪俣
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ぜひ、よろしくお願いします。
※『島キャン』とは
島を学びの場(キャンパス)と捉え、キャンプするように自身の可能性を拡げていこう、というインターンシップ
http://www.shimacam.com/
株式会社カケハシ スカイソリューションズ 代表取締役社長 中川智尚氏(なかがわともひさ)
2011年設立。新卒・中途採用の採用支援サービス、社員研修などの組織強化サービスなどを手がける。そのほか、グローバル事業としてアジア圏の学生と日本企業をマッチングさせるサービスも提供。SNSなど学生向けのサービスも充実している。
■カケハシ スカイソリューションズHP
http://www.kakehashi-skysol.co.jp/